一般社団法人日本福祉用具供給協会

3.福祉用具の利用効果について

歩行補助具の利用効果

利用効果の全体像

歩行補助具を利用することにより、以下のような効果が期待されます

利用者本人にとっての効果

ADLの向上
< 効果の大きいもの >

・移動(居宅内)

・屋外移動

・排泄

< 効果のあるもの >

・起居

要介護度の維持・改善

生活の変化
< 用具の利用状況の変化 >

・利用頻度の増加

・利用時間の増加

< 生活自立度の質的な変化 >

・生活行動が意欲的になる

・活動時間が長くなる

・外出の機会が増える

満足度の向上

自立して生活しようという意識の高まり

気兼ねなく気楽に生活できる

自分のペースで生活しやすくなる

体を動かす機会が増え体調がよくなる

社会とのつながりを感じる

生活についての不安・不満の軽減

介護者にとっての効果

介護者負担の軽減
居宅内移動 → 身体的負荷軽減
  心理的負担軽減
  時間の短縮・効率化
屋外移動 → 身体的負荷軽減
  心理的負担軽減
  時間の短縮・効率化
移乗 → 身体的負荷軽減
  心理的負担軽減
  時間の短縮・効率化
満足度の向上

・介助に余裕ができコミュニケーションが充実

・利用者の行動の広がり支援内容が充実

・身体的負担が軽減し楽になる

・介護が効率化でき、時間が有効活用できる

・心の余裕・人間関係の円滑化

・利用者の状態の改善に満足

歩行補助具の利用効果(1) 利用者本人に対する効果(1)

●287件の歩行補助具の利用事例※から、以下のようなことが明らかになっています。

●歩行補助具の利用者は、要支援、要介護1〜2の方が多く、それぞれ全体の2割程度を占めています。

※利用期間はケースにより異なりますがおよそ6ヶ月です。

※歩行補助具以外の福祉用具を併用しているケースも含みます。

※他の介護保険サービスも利用しているケースも含みます。

歩行補助具利用事例のADL改善の状況 ※詳細は次のページのデータをご参照ください

【移動(居宅内)】

・該当事例158件中106件が改善し、49件が維持しています。

・「見守り」→「自立」が最も多く、「一部介助」→「自立」「見守り」の事例も多数、見られます

・「行わず」→「見守り」、「全介助」→ 「自立」など、大幅に改善する例もあり、生活の変化につながっています。

・全体として「見守り」「自立」まで改善する事例が多く見られました。

【屋外移動】

・該当事例119件中67件が改善し、50件が維持しています。

・「見守り」→「自立」が最も多く、「一部介助」→「見守り」「自立」となる例も多く見られます。

・「行わず」「全介助」→「見守り」の事例もあり、大幅に改善する例もあります。

・全体として「見守り」「自立」まで改善する事例が多く見られました。

【排泄】

・該当事例46件中31件が改善し、15件が維持しています。

・「見守り」→「自立」となる例が多くなっています。

・「全介助」→ 「見守り」、「一部介助」→「見守り」「自立」など、改善が見られます。

・全体として、「見守り」「自立」まで改善する例が多くなっています。

【起居】

・「一部介助」から、「見守り」「自立」まで、大幅に改善した例があります。

歩行補助具の利用効果(2) 利用者本人にとっての効果(2)

生活の変化

【歩行補助具利用状況の変化】 (287件中)

・1週間の利用頻度が増加した:件数55件 平均8.3回→9.4回

・1週間の利用時間が増加した:件数59件 平均16.0時間→21.8時間

【生活の変化】

・生活自立度が向上した:64件

・生活の自立度の質的な変化:

・1週間の外出の頻度が増加した:件数146件 平均2.9回→4.5回

・家族以外とのコミュニケーションが増加した:件数91件 平均6.0時間→8.3時間/週

満足度の向上

【利用者本人の満足度】 (287件中)
「移動(居宅内)」が改善した場合には…

・「自分のペースで生活しやすくなった」

・「自立して生活しようという意識が高まった」

・「生活の不安や不満が軽減・解消した」という回答の割合が高くなっています。

「屋外移動」が改善した場合には…

・「自立して生活する意識が高まった」

・「自分のペースで生活しやすくなった」

・「社会とのつながりが感じられるようになった」という回答の割合が高くなっています。

「排泄」に歩行補助具を利用している事例では、「自立して生活する意識」「自分のペースで生活」のほか「気兼ねなく気楽に生活できる」という回答が多く見られました。

歩行補助具の利用効果(3) 介護者に対する効果

●287件の歩行補助具の利用事例※から、以下のようなことが明らかになっています。

●主な介護者は、利用者の子どもまたは子どもの配偶者で、50歳〜70歳の女性が多くなっています。

※利用期間はケースにより異なりますがおよそ6ヶ月です。

※歩行補助具以外の福祉用具を併用しているケースも含みます。

※他の介護保険サービスも利用しているケースも含みます。

介護負担の軽減

【移動(居宅内)】(287件中)

・「楽になった」件数:167件

身体的負担の軽減 139件
心理的負担軽減 72件
時間の短縮 62件

・ADLが向上している場合だけでなく、向上していない場合でも、半数以上の介護者の負担が軽減しています。

・歩行補助具と特殊寝台を利用している場合、より負担感が軽減しています。

【屋外 移動】(287件中)

・「楽になった」件数:173件

身体的負担の軽減 144件
心理的負担軽減 71件
時間の短縮 69件

・ADLの改善の有無によらず、7割近くの介護者が「楽なった」と回答しています。

・特に身体的負担は大幅に軽減されています。

【排泄】(287件中)

・「楽になった」件数:94件

身体的負担の軽減 68件
心理的負担軽減 49件
時間の短縮 44件

・排泄に歩行補助具を利用している場合、特にADLが向上した事例で、負担軽減の割合が高くなっています。

・身体的負担ばかりでなく、心理的負担の軽減、時間の短縮も見られます。

満足度の向上

・全体として、「身体的な負担の軽減」の割合が非常に高くなっています。

・居宅内の移動や屋外移動に利用している事例では、ADL改善の有無によらず、「利用者の行動の広がり・支援内容の充実」を感じる介助者が多くなっています。

・「介護の効率化・時間の有効活用」も、ADL改善によらず、約6割〜7割の介護者が感じています。

効果の事例

ケース7:Gさん(75歳、男性、要介護1)の場合

主な介護者: 妻、娘  利用しているサービス:訪問介護

利用期間: 7ヶ月  併用している用具:なし

【利用前の状態】

起居 :一部介助

排泄 :一部介助

移動:一部介助

屋外移動:行わず

大腿骨頚部骨折により、起居、排泄、移動が一部介助の状態でした。

【利用後の状態】

起居 :自立

排泄 :見守り

移動 :見守り

屋外移動 :見守り

起居が自立し、排泄、移動が見守りになりました。屋外移動が見守りにより可能になりました。

【主な効果】

・ADLが大幅に向上し、要介護1から要支援に改善しました。
日常生活はほぼ自立出来るようになり、時々散歩にも出かけるようになりました。

・入院生活により筋力低下及び痛みが見られましたが、歩行器を利用し、日常生活でのリハビリが行えた事により筋力も回復しました。現在では四点杖を利用する事によりほぼ日常生活は自立しており、介助者の介護の軽減にもつながっています。

【ポイント】

・歩行器を利用することにより、日常生活の中でのリハビリを行うことができ、筋力が回復した事例です。

ケース8:Hさん(84歳、女性、要介護1)の場合

主な介護者: 不明  利用しているサービス:訪問介護

利用期間: 6ヶ月  併用している用具:車いす

【利用前の状態】

起居 :見守り

排泄 :見守り

移動 :見守り

屋外移動 :行わず

両下肢変形性膝関節症により痛みが強
い状態でした。

【利用後の状態】

起居 :自立

排泄 :自立

移動 :自立

屋外移動 :全介助

用具の利用により痛みが軽減し、居宅内での動作が自立したほか、介助により外出できるようになりました。

【主な効果】

・要介護度は変化していませんが、起居、排泄、移動が自立して行えるようになりました。

・下肢の痛みをこらえながら、見守りにより自力で動作していましたが、福祉用具導入により、痛みの軽減につながったため、自立することができました。

・痛みの軽減によって、家事などの意欲が湧いてきており、良い影響をもたらしています。通院、買い物など、外出の頻度も増えました。

【ポイント】

・用具を利用することにより、痛みが軽減することで、動作が自立するばかりでなく、家事などに積極的に取り組む意欲が湧いてきた事例です。

・室内では歩行補助具、外出時には車いすを利用し、行動範囲が広がっています。

ケース9:I さん(60歳、男性、要介護3)の場合

主な介護者: 妻、娘  利用しているサービス:住宅改修

利用期間: 不明  併用している用具:車いす、特殊寝台

【利用前の状態】

起居 :一部介助

排泄 :一部介助

移動 :一部介助

屋外移動 :全介助

脳梗塞により、起居、排泄、移動が一部介助の状態でした。

【利用後の状態】

起居 :見守り

排泄 :見守り

移動 :自立

屋外移動 :見守り

起居、排泄は見守りまで、移動は自立まで改善しました。

【主な効果】

・ADLが向上し、要介護3から要介護1まで改善しました。

・当初は、筋力低下による痛みが大変で動こうともしませんでしたが、リハビリの結果筋力アップしてきて動きもスムーズになりました。

・少しずつ遠くに出かけられるようになり、車いすの利用頻度が減り、返却するまでになりました。

・精神的に余裕が出てき、最近は笑顔がとても良く出るようになりました。

【ポイント】

・住宅改修により手すりを設置し、四点杖でトイレまでの往復動作など、意欲的に自分なりのリハビリを行い、出来るだけ動くことを心がけた結果、改善した事例です。

そのほかにも、以下のような事例が報告されています。

  年齢 性別 要介護度 併用している福祉用具 ADLの変化 効果・変化の内容など
移動 屋外移動
1 83 要支援 見守り
→自立
転倒による骨折歴があり、恐怖感がみられていた。又、腰・両膝痛にて歩行に支障をきたしていた。歩行器利用後は、屋内移動時の安全面が確保され、転倒はみられない。また、転倒に対する恐怖感も軽減出来ている。安全・安心した移動手段が確保される事で、生活範囲の維持・拡大(食卓での食事時間が増加など)へとつながっており、起居動作後のADLをほぼ自立にて行う事が実現されている。
2 76 要支援 一部介助
→自立
歩行不安定により、手ひき介助が必要であったが、歩行補助具の利用にて介助が必要なくなった。介護者の負担なく、自発的に移動出来るようになった為、自宅内を歩行して移動する機会が増加し、更なる下肢の筋力低下を防止できている。介護者も高齢であり、歩行の介助時に一緒に転倒してしまう恐れがあったが、その不安や負担がなくなった。ミニスロープの併用利用により、自宅内を歩行器でより安全に移動できるようになった。歩行器を使用しなかった場合、妻の身体的、精神的負担が大きく、訪問介護の利用の可能性があったが、自力で移動が可能になった事により、サービスが減り、又本人の意欲(自発的に動こうとする)の増加につながったと考えられる。
3 88 要介護
1
一部介助
→見守り
口頭指示
→見守り
歩行運動困難であり以前は杖歩行であったが、歩行車を使い安定、安全性が確立され移動時の不安が無くなり外出頻度が増え意欲向上が見られる。
長時間起立動作が行え、移動距離増加。介助頻度軽減。歩行運動増加に伴い、機能維持及びコミュニケーションを図る機会が作られている。
4 73 要介護
2
車いす・
特殊寝台
一部介助
→見守り
一部介助
→見守り
自立が少し楽しくなる。プールに行ってリハビリできるようになる。ディケアの利用回数が増加し、会話が多くなった。自発的に歩こうとする気持ちの向上が見られる。住宅改修(トイレの手すり ・居間の手すり ・段差解消)の併用による効果アップ。ショートステイの利用が週1回から月1回に減少した。
5 89 要介護
2
一部介助
→見守り
行わず
→見守り
全身筋力低下、著しくふらつき等で転倒する回数が多かったが、短距離ではあるが歩行器利用で転倒する回数が減り、日常生活レベルが以前に比べ高くなった。歩行器を利用することで日常生活中の活動で筋力が回復、リハビリにもなりより自立した生活が送れるようになった。又、介護者の介護負担軽減された。通所リハの回数が週2回から1回に減少。
6 70 要介護
3
車いす 自立
→自立
自立
→自立
屋内にて4点杖で2,3歩程度しか歩けなかったのが、今は、屋外にて4点杖で30分は歩ける様になった。訪問リハの利用回数が半分程度に減った。
7 75 要介護
3
特殊寝台 一部介助
→自立
寝室から他室へ行く事が多くなった。リウマチがあり、各関節の変形・痛み・可動域制限がある中で、寝室から他室等へ行く事がとても楽になり「なくてはならない物」となっている。
8 83 要介護
3
特殊寝台 全介助
→見守り
全介助
→一部介助
馬蹄型歩行器でもふらつきがあり不安定であったが、歩行車の利用となり、見守りでよくなった。馬蹄型歩行器を使用し、生活、リハビリを続けてきた事により、安定した歩行能力が向上してきており、歩行車へ変更可能となり、現在では1本杖での歩行訓練に取り組んでいる。起き上がり動作は、当初より自立に当たっていたが、立ち上がり時の補助を特殊寝台にて行い、身体への負担軽減を行ってきた結果の歩行状態の向上が達成できている。
9 75 要介護
3
一部介助
→見守り
一部介助
→一部介助
移動が見守りで可能になり、ポータブルトイレからトイレでの排泄が出来るようになった。自分で家事を行う意欲が出た。用具を組み合わせて使用することで、従前から使用していた自前の家具を引き続き使用もすることができ、介護者の援助を少なくすることができた。
10 82   要介護
3
車いす・
特殊寝台
全介助
→自立
行わず
→一部介助
良くなりたいという意欲が高い。リハにて歩行器持込でで頑張る。歩行器の利用を選定する事により歩く意欲がわいて来た。積極的にディサービスに歩行器を持ち込み歩行訓練をしている。関節のいたみもやわらいで筋力UPしている。なによりも笑顔が多くなった。